【読書感想】『一葉』鳥越碧
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今回ご紹介する本は鳥越碧氏著作の「一葉」です。
タイトルの通り、樋口一葉の生涯を描いた小説です。
恥ずかしながら私の樋口一葉に関する知識は
明治の女流文学の先駆け、夭逝、5000円札・・・ぐらい(笑)
図書館でたまたま手に取った時も、大して面白そうだと思わず
全く期待しないで読み始めたというのが正直なところだ。
が、しかしである。
読み始めた途端にグイグイと引きこまれてしまった。
1.士族の娘として厳しく育てられた娘時代
女に学問は要らないという風潮と己の向学心との葛藤。
そして明治維新の影響をもろに受けた「旧旗本」という
樋口家の秘密・・・
わずか17歳にして一家を支える戸長となった一葉が
己に厳しく、貧しくとも気品を保ち孤高の存在であろうとした娘に育っていく様が
生き生きと描かれている。
2.生活苦と小説家への道
一方で、樋口家の暮らしは全く楽ではなく、借金に借金を重ねる暮らしであった。
一葉は糊口を凌ぐために小説家を目指し、半井桃水に師事する。
当時、イラストのついた大衆向け小説は俗で下賎なイメージがあった。
しかし、一葉はそれでも良い、金がなければ暮らせないと
桃水に新聞小説の書き方を教わる。
3.半井桃水との恋
文明開化の花開く明治を舞台に静かに桃水との秘めた恋が一葉を揺さぶる。
戸長として嫁ぐことが許されない関係にも関わらず
一葉の小説を世に出すことに奔走し、何かと優しい桃水に一葉は惹かれていく。
二人の恋はどこまでも歯がゆく、奥ゆかしいプラトニックラブである。
4.圭秀小説家としての地位そして・・・
しかし、やはり士族の家を背負い、和歌の世界に生きてきた一葉にとって
大衆向けの俗っぽい小説を書くことは葛藤があった。
ー「樋口一葉」という名を俗っぽい小説で汚すわけにはいかないー
この想いが一葉を芸術としての小説へ昇華させていく。
しかし、日本の文壇が彼女を認め、一葉の名が圭秀小説家として知られた時
桃水との距離は遠のいていくのだ。
新聞小説を生業として生きるために売れる小説を書く桃水と
自らの内面を暴きだし、社会における女性の立場を吐露する社会的、芸術的な
小説を目指した一葉の小説に対する立ち位置は大きく隔たってしまっていたのだ。
わずか24歳でこの世を去った一葉。
驚くべきは、逝去する間際の14ヶ月で代表作である「にごりえ」「たけくらべ」等の
作品を世に送り出したことである。
5.最後に
私は流星のごとく命を燃やし、貧しい中にも心のせせらぎを見出し
それを文字で表していった一葉の姿に心を打たれた。
同時に一葉を羨ましいとも思う。
非常に生活が苦しい中にあっても、彼女は生活に飲み込まれずに
己の情熱を注ぐべきものを見つけ、達成していったのだ。
貧しくとも生きがいを追いかけるべきか、
それとも、「安定した生活」のためには生きがいなど捨てるべきなのか
もちろん答えが出る簡単な話ではない。
しかし、それでも一葉にように生きてみたい。
そう思わせてくれる一冊であった。
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